岡山地方裁判所 昭和34年(ヨ)155号 決定 1959年8月22日
申請人 三宅金一
被申請人 中国鉄道株式会社
主文
申請人の本件各申請はいずれもこれを却下する。
理由
申請人の本件各申請の趣旨及び理由の要旨は別紙一、二に各記載のとおりである。よつて本件各申請の当否につき以下判断する。
第一、疎明によれば、被申請人中国鉄道株式会社(以下被申請会社と略称する。)の株主である申請外板野醇平外四名が、岡山地方裁判所に対し、被申請会社の昭和三三年下期営業報告書、貸借対照表、財産目録、損益計算書並びに利益金処分案の件(第一号議案)、取締役福田弘、同星島睦雄、同坪井清一任期満了につき取締役三名改選の件(第二号議案)、監査役杉山五郎、同藤田倫一任期満了につき監査役二名改選の件(第三号議案)を会議の目的たる事項とする被申請会社の株主総会招集の許可を申請し、昭和三四年六月一一日その許可を得、右許可決定に基づき同年七月一六日午後一時より被申請会社本店において右株主総会(以下本件総会と略称する。)を招集したこと、右総会において、取締役福田弘、同星島睦雄、同坪井清一任期満了につき取締役に被申請人西崎恵、同立石欽一の二名を、監査役杉山五郎、同藤田倫一任期満了につき監査役に申請外藤田倫一をそれぞれ選任する旨の決議(以下本件決議と略称する。)をし、右決議に基づき被申請人西崎恵、同立石欽一、申請外藤田倫一が昭和三四年七月一六日被申請会社の取締役監査役にそれぞれ就任したこと、被申請会社代表取締役職務代行者藤田正蔵が昭和三四年七月一六日付で(イ)昭和三三年度下期決算案の件、(ロ)代表取締役選任の件、(ハ)その他を議題とする被申請会社取締役会の招集通知を被申請会社取締役林永之、同藤田剛平、同安田彦四郎の外、被申請人西崎恵、同立石欽一に対してなし、ついで同月二二日右招集にかゝる取締役会において昭和三三年度下期決算案(昭和三三年度下期営業報告書、貸借対照表、財産目録、損益計算書並びに利益金処分案)を承認する旨及び昭和三四年八月二四日午後一時より被申請会社本店において右決算案承認を会議の目的たる事項とする株主総会を招集する旨の決議をし、右決議に基づき、前記藤田正蔵が同年八月八日付で右株主総会の招集通知を各株主宛になしたことが一応認められる。
第二、申請人は本件決議はその決議の内容又は方法が法令又は定款に違反し、無効であるか、又は少なくとも取消さるべきものである旨主張するので判断する。
一、決議に際し議決権の数が過半数に達しているかどうか不明であるとの主張(別紙一、二記載第二の(A)点)について。
疎明によれば、被申請会社株主総会の決議は、同社定款第二一条第一項により法令又は定款に別段の定めある場合を除き、出席株主の議決権の過半数を以てこれをなすべきものであるところ、本件総会議事録には、本件決議による取締役監査役の選任の経過の要領につき、「取締役福田弘同星島睦雄、同坪井清一任期満了につき取締役二名、監査役杉山五郎、同藤田倫一任期満了につき監査役一名を選任することとし、その指名を議長に一任する旨の決議が出席株主中の賛成者(起立者)多数を以てなされ、右決議に基づき議長小脇芳一において取締役に西崎恵、立石欽一の両名を、監査役に藤田倫一をそれぞれ指名する旨を報告したうえ、異議なし賛成の声多数、拍手なるを以て議長は改めて右三名が取締役監査役にそれぞれ選任されたことを告げた。」旨の記載があるに過ぎず、本件決議が右定款第二一条第一項の趣旨にしたがい成立したものであるか否かを明らかにしてはいないけれども、当日の出席株主の議決権の総数は一、一六一、五八一票、したがつてその過半数は五八〇、七九一票以上となるところ、前記板野醇平は当日被申請会社の株主三二六名から議決権行使の委任を受け、その議決権の総数は出席株主の議決権の過半数である七九〇、二四九票であつて、しかも同人は右の取締役監査役の候補者の指名推薦方を議長に一任する旨の決議及び右決議に基づき議長が指名推薦した各候補者を承認する旨の決議についてはいずれも賛成者として起立する等したものであることが一応認められる。
ところで、株主総会における会議の目的たる議案に対する表決の方法は、定款に別段の定めのない限り、必らずしも投票によりこれを明確にするを要せず挙手起立その他出席株主の明認し得べき方法においてこれをなすを以て足り従つて議案に対する賛成又は反対が出席株主の議決権の過半数に達することの明らかである以上、賛成者又は反対者の有する議決権の数を計算し、過半数か否か或はその票数を明確にする等の措置をとらなくともあえて違法ではないと解するのが相当であるところ、被申請会社定款には右表決の方法につき別段の定めもないので、本件決議においては申請外板野醇平の議案に対する賛成により本件決議が成立するに至ることおのずから明らかであるから、本件決議の成立に際し賛成者又は反対者の議決権の数を計算する等の措置がとられなかつたことを以て、本件決議の方法が法令及び定款に違反するものとすることはできない。申請人のこの点の主張は理由がない。
二、議案の不可分一体性に違反した決議であるとの主張(別紙一、二記載第二の(B)点)について。
疎明によれば、本件総会においては、総会の決議により前記第二号第三号各議案を一括先決することとし、これに対する決議は成立を見たが、前記第一号議案については取締役会から昭和三三年度下期営業報告書等の計算書類が提出されなかつたため、何らその審議に入ることなく、議長において閉会を宣言するに至つたことが一応認められる。
ところで、本件総会におけるが如く、会議の目的たる事項が第一号第二号第三号議案と順序付けられたものとして株主に通知されている場合には、同時に総会における議事日程をそのように定め通知したものというべきであるから議長は通常その議事日程に拘束せられそれにしたがつて議事を進行すべきものではあるが、会議の目的たる事項にして性質上不可分の関係にあるものでない限り、総会の決議によりこれを変更し、例えば右第二号第三号各議案を先に審議決議し、第一号議案は審議未了としてこれを継続会において審議するが如き措置をとることは妨げないものと解するを相当とし、この理は少数株主が裁判所の許可を得て招集する株主総会においても同様と解すべきである。本件総会についてこれをみるのに、前記第一号ないし第三号議案を以て性質上不可分の関係にあるものと解することはできない。何故ならば、申請人主張の如く、前記福田弘、星島睦雄、坪田情一、杉山五郎、藤田倫一が被申請会社の株主総会において現実に昭和三三年度下期営業報告書等の計算書類の承認の決議がなされるまで取締役又は監査役の地位にとゞまるべきものであるならば格別、後に詳述するように右福田弘等は既に任期満了によりそれぞれ取締役又は監査役を退任しているものと解すべきであるから、前記第二号第三号各議案は右退任により生じた欠員を補充すべく補欠選争を行うことを目的とするものにすぎず、前記第一号議案とは何ら関係のないものというべきであるからである。申請外板野醇平等に本件総会を招集することを許可した岡山地方裁判所の昭和三四年六月一一日付決定においては会議の目的たる事項を定めたことの外特段の定めをしていないのであるから、同決定がこれと異なる趣旨のものであるとは解せられない。してみると、本件総会において、前記第二号第三号各議案を一括先決する旨決議したうえ本件決議をなし、第一号議案について何ら審議に入ることなく本件総会を終結せしめたことを以て本件決議の方法が法令に違反したものであるとすることはできない。申請人のこの点の主張も理由がない。
三、議長選出方法の定款違反の主張(別紙一、二記載第二の(C)点)について。
疎明によれば、被申請会社定款第二〇条には「総会の議長は社長がこれに当る。社長事故あるときは予め取締役会の定めた順位に従つてこれに代り総て差支あるときは出席株主中よりこれを選任する。」旨規定しているが、本件総会においては、被申請会社代表取締役職務代行者藤田正蔵が出席していたのにかかわらず、議会の決議により、前記少数株主の一員である被申請人立石欽一が株主小脇芳一を議長候補者として指名推薦し、これに対し承認する旨の決議があつたのち、同人が議長となり、同人の議事運営の下に本件決議がなされたものであること、本件総会議事録には右議長選任の各決議の成立につき「異議なしの声多数なるにより右立石欽一において右各決議が成立した旨宣言した。」旨の記載があるにすぎず右各決議が前記の被申請会社定款第二一条第一項の趣旨にしたがい成立したものであるか否かを明らかにしてはいないのであるが、出席株主の議決権の過半数の議決権を有する前記板野醇平が右各決議に賛成していたことが一応認められる。
しかしながら、右定款第二〇条の規定は通常予想される事態を前提としたものであり、少数株主が裁判所の許可を得て招集した本件総会の如きにおいては、右規定にかゝわらず総会の出席株主中から互選により議長を選任するを妨げないものと解するのが相当であるから、総会の決議により選任された議長小脇芳一は、適法に議長としての職務権限を有すべく、その議事運営の下になされた本件決議を以て決議の方法が定款違反であるということはできないし、また、右議長選任の各決議に際し前記板野醇平がこれに賛成したため賛成が出席株主の議決権の過半議なること明らかである以上、右各決議の成立につき議決権の数を計算する等の措置がとられなくとも、これを以て右各決議の方法が法令又は定款に違反するものとすることのできないことは前に詳述したとおりである。してみれば、以上と異なる見解に出た申請人のこの点の主張も理由がない。
四、決議の内容が定款第二七条に違反するとの主張(別紙一、二記載第二の(D)点)について。
疎明によれば、被申請会社定款第二七条には「取締役の任期は就任後第四回、監査役の任期は就任後第二回の定時総会終結の時に満了する。」旨を、同定款第一七条には「定時株主総会は毎年四月及び十月に之を招集」する旨をそれぞれ規定しており、申請外福田弘、同星島睦雄、同坪井清一は昭和三二年四月三〇日被申請会社取締役に、申請外杉山五郎、同藤田倫一は昭和三三年四月三〇日被申請会社監査役にそれぞれ就任したものであるから、右福田弘、星島睦雄、坪井清一、杉山五郎、藤田倫一の任期はいずれも本来ならば昭和三四年四月に招集される定時株主総会終結のときに満了するものであるところ、右定時株主総会は所定の日時を経過するもなお招集されなかつたことが一応認められる。
ところで右定款第二七条の規定を字義どおり解すれば取締役については就任後第四回の、監査役については就任後第二回の定時総会が現実に終結しない限り右取締役監査役の任期は満了しない如くであるが、右規定が商法第二五六条第三項の規定をうけて当該取締役の任期中の最終の決算期に関する定時総会の終結に至るまでその任期を伸長する旨を規定したもの(尤も反面ある場合には取締役又は監査役の任期を就任後第四回又は第二回の定時総会の終結までに短縮する旨をも規定している。)であり、而して商法第二五六条第三項第二八〇条の規定の趣旨は、任期中の最終の決算期に関する定時総会の終結前に任期の満了する取締役監査役に当該定時総会における質問説明の機会を与えると共に会社に対しては役員補充の補欠選挙のための臨時総会招集の手数を省く便宜を与えるため、同法第二五六条第一、二項第二七三条所定の取締役監査役の任期を例外的に伸長することを認めたにすぎず、右取締役監査役に同法第二八四条に規定する定時総会の計算書類承認にともない生ずる取締役監査役の責任解除を得させるためにその任期を伸長することを認めたものではないことを考えるならば、商法第二五六条第三項第二八〇条及びこれをうけた右定款第二七条の規定は通常予想される事態を前提としたものであつて、定款所定日時を経過するもなお定時総会が招集されない場合においては、右規定によつても当該定時総会が通常終結すべかりし時期を超えてまでも取締役監査役の任期を伸長せしめることはできないと解するのが相当であり取締役がその義務に違反し定時総会を招集しない場合においてもなお取締役等をして本来ならば当然到来すべき任期の満了を阻止せしめ得ることを是認する結果となるところの、「現実に開かれた定時総会の終結の時を以て任期満了する。」との解釈はとるべきでないと考える。したがつて前記福田弘、星島睦雄、坪井清一、杉山五郎、藤田倫一の各任期は、いずれも、合理的に考えて昭和三四年四月に招集される定時総会が通常終結すべかりし時、すなわち昭和三四年四月末日の経過をまつて満了したものというべきである。尤もこれに対し、取締役等の任期は右日時の経過をまつて満了せず、爾後招集される取締役等改選のための総会において改選決議がなされることによりその総会終結の時に満了するものであるとの見解も考えられるが、右見解によつても、本件総会においては前記第二号第三号各議案を一括先決して本件決議を成立せしめ、前記第一号議案については何ら審議に入ることなく終結をみるに至つたものであるから、前記福田弘外四名の各任期はいずれも本件決議の成立により本件総会終結の時に満了することとなる。してみれば、いずれにせよ右任期満了退任により生ずる欠員を補充すべく、新取締役に被申請人西崎恵、同立石欽一の両名を、新監査役に申請外藤田倫一をそれぞれ選任した本件決議を以てその内容が右定款第二七条に違反した無効なものということはできない。右と異なる見解に出た申請人のこの点の主張も理由がない。
そうすると、申請人の以上の主張はいずれも理由がなく、他に特段の事情もないから、本件決議を以てその決議の内容又は方法が法令又は定款に違反し無効であるか又は取消さるべきものとすることはできない。
第三、次に申請人は、前に一応認定した昭和三四年七月二二日招集された被申請会社取締役会における決議はその決議の方法又は同取締役会招集手続が法令又は定款に違反するから無効又は取消さるべきものであり、したがつて、右決議に基づき被申請会社代表取締役職務代行者藤田正蔵が昭和三四年八月八日付を以て為した前記株主総会招集通知は無効である旨主張(別紙二記載第三の(二)の(1) (2) の各点)するので判断するのに、申請人の主張はいずれも前記福田弘、星島睦雄、坪井清一が任期満了により退任せず、昭和三四年七月二二日現在なお被申請会社取締役の地位にとどまつていることを前提とするものであることその主張自体から明らかであるところ、右福田弘、外二名が昭和三四年四月末日の経過をまつて被申請会社取締役としての任期満了につき退任したものであると解すべきことは前に詳述したとおりであるから、申請人のこの点の主張はその余の点の判断をまつ迄もなく理由のないこと明らかである。してみると、他に特段の事情もないから、右株主総会招集通知を以て無効ということはできない。
第四、以上の次第であるから、本件決議及び前記取締役会の決議が無効又は取消さるべきものであるとして、これに基づきなされた申請人の本件各申請は、いずれも失当としてこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 池田章 緒方節郎 山口繁)
別紙一
昭和三四年(ヨ)第一五二号事件
申請の趣旨
一、被申請会社の小数株主招集による昭和三十四年七月十六日開催の株主総会の決議の効力を停止する。
二、被申請会社の取締役坪井清一、同福田弘、同星島睦雄及び監査役杉山五郎は昭和三十四年七月十六日任期満了によつて退社せず、従前通りの地位を保有しその職務を行うものとする。
三、被申請人西崎恵、同立石欽一は被申請会社の取締役の職務を執行することができない。
申請の理由
第一、株主板野外四名の少数株主が裁判所の許可を得て招集した昭和三十四年七月十六日の被申請会社の株主総会が開催せられるに至つた経過について
(一) 被申請会社は自動車による旅客運輸を目的とする会社であつて毎年三月及び九月の各末日を決算期とするものであるが、昭和三十四年四月八日開かれた取締役会において代表取締役職務代行者藤田正蔵は昭和三十三年度下期の収支決算書を作成してこれが承認を取締役会に附議したものであるが、右藤田は現に一部株主から被申請会社の財産を業務上横領したという嫌疑で岡山地方検察庁に告発せられ、同庁から捜査を受けているのであつて、それ故、今期の決算書類(貸借対照表、財産目録、損益計算書、利益金処分案-以下単に決算書という)については、特に正確を期すべきであるから、これを権威ある公認会計士に委嘱して調査検討しなければならないとの意見が提案可決され、次いで翌九日開かれた取締役会において久山、鳥越両公認会計士にその調査を依頼することを決議し、更に同月十三日開かれた取締役会において、後日右両会計士よりの報告がなされた後に改めて、取締役会を招集して右会計士の報告の内容を検討したうえ正確なる決算書を作成し、これを総会に提出するべきであるから昭和三十三年度下期の決算書承認のための定時総会の招集は、その時まで延期する旨の決議がなされた。
(二) ここにおいて藤田正蔵は取締役会の形勢が自己に不利であることを見て自己の横領の嫌疑を匿くすため、情を知らない多数株主の決議の利用を計らんとしたものであろうか、同年四月十五日取締役会の承認を得ることなく突然独断にて定時総会の招集の通知を発した。
(三) 申請人は、他の取締役より右事情を聞知したので藤田正蔵の企図を破砕すべく、この不当なる定時株主総会招集を停止するため裁判所に仮処分の申請をなしたところ、裁判所はその申請を理由ありとして同月二十八日総会の招集を停止する旨の仮処分命令を発した。(岡山地方裁判所昭和三十四年(ヨ)第七八号事件)
(四) これを見るや右藤田正蔵は、一部株主と結託して商法第二百三十七条による少数株主の招集権を行使せんことを企て、これに応じた株主板野外四名は、とうてい適法に作成せらるる見込のない昭和三十三年下期の決算書の承認を第一号議案とし、また、未だ任期の満了せない取締役坪井清一、同福田弘、同星島睦雄に対して任期満了したとして、これが改選を第二号議案とし、同じく監査役杉山五郎、同藤田倫一に対する任期満了を理由とする改選を第三号議案とする定時株主総会の招集の許可を裁判所に申請し、昭和三十四年六月十一日その許可を得、これに基いて昭和三十四年七月十六日総会を開催したものである。
第二、昭和三十四年七月十六日の前記少数株主の招集による総会においてなされた決議の瑕疵について、
右の次第で総会が開催せられたところ、元来、議案第一号の対象となつた成規の決算書類なるものは存在しないのであるから(本申請書第一の(四)参照)総会は結局これについて何等の決議もしないで第二、第三号議案のみを一括上程し、取締役に西崎恵、立石欽一の二名を、監査役に藤田倫一をそれぞれ選任する旨を決議した。
しかしながら、右決議は左の理由によつて無効又は取消し得べきものである。
(A) (決議に際し、議決権の数が過半数に達しているかどうか不明であること)
西崎恵、立石欽一を取締役に、藤田倫一を監査役に選任する旨の決議は、これが指名を議長に一任する旨の決議に基いてなされたものであるが(議事録写九-一〇頁)これを一任する旨の決議は出席株主の議決権の過半数によつて決せられなければならない(定款第二十一条、第二十五条、商法第二百三十九条第一項)当日の出席株主の議決権の総数は一応議事録によれば一、一六一、五八一票である(議事録写一頁参照)従つてその過半数は五八〇、七九一票以上でなければならない。
ところが議長は、議長に指名一任の決議を単に起立によつて決し、起立多数としてこれを可決したものと取扱つた(議事録写九-十頁)。そして議長はその決議に基いて前記西崎、立石、藤田の三名を取締役又は監査役に指名しているのであるが、これは不当である。起立多数といつても、それだけで議決権の個数が過半数に達しているとはいえない。何となれば株主の有する議決権の数は各株主によつていろいろ違つているのであるから。当日は百人近くの出席者(議事録写一頁参照)があつたのだから詳細にその起立者の議決権の数を計算して過半数に達しているか否か、過半数に達するとして何票あるのかを明確にすべきにも拘らず、これを明確にすることなく単に起立多数として決議しこの決議に基いて指名したのであるから、結局本件決議は決議の方法が定款及び商法の規定に違反したものとして取消を免れない。
(B) (議案の不可分一体性に違反した決議であること)
本件の少数株主による総会の招集が裁判所によつて許可せられたのは、定時総会の招集としてである。(このことは裁判所においても顕著な事実である)ところで定時総会というのは、決算書類の承認についての決議をなす総会であるとするのは学説上明かである(代表的な学説として、例へば、松田二郎、会社法概論一七六頁、また、西原寛一会社法(商法講義II二三二-二三三頁)の如きは、計算書類の承認は定時総会の法定任務であるとさえ説明する)
ただ定時総会においても決算書類の承認に附随して取締役監査役の選任をなすことは差支えないとするにすぎない(この点も学説の一致したところである)。そこで、前記裁判所の招集許可が、定時総会として許可された以上は、決算書類の承認の決議を基本的なものとし、これに附随してのみ取締役監査役の改選の決議をなすことの趣旨において許可せられたものと解さねばならない。つまり本件の第二号第三号議案(取締役、監査役の改選)は第一号議案(決算書の承認)と不可分一体のものとして許可され、もし第一号議案の決議がなされないならば第二、第三各議案の決議はこれを許さないとの趣旨において許可があつたものである。
けだし、計算書類の承認の決議をなすことなく、単に取締役、監査役の改選の決議のみをなすならば、これは臨時総会を開くをもつて足るのである。しかも一方、定時総会において決算書類の承認について決議せずして単に取締役、監査役の改選のみを決議することは、定時総会の性質上無効と考へられるからである。本件において特に定時総会として許可せられしかも取締役、監査役の改選の議案を第二、第三号議案として総会を開くことを許されたのは正にこの趣旨である。
従つて総会が第一号議案にはふれず、第二、第三号議案のみを決議したのは裁判所の許可に反した決議である。
本来からいえばかかる際にこそ商法第二三七条第三項を発動して取締役をして決算書類の作成提出をなさしめこれが提出あるまで総会を続行し、提出ありたる後これを審議し、しかる上で第二、第三号議案の役員改選の決議をなすべきであつて、かかる処置に出でてこそはじめて裁判所の招集許可の本旨に合した総会の行動といい得るのである。徒らに取締役が決算書類を提出せないことに藉口してこの処置に出づることなく、本来基本的必須議案たる第一号議案と不可分一体の附随的議案としてのみ許可せられた第二、第三号議案についてのみ決議をなしたのは、総会の決議の方法が裁判所の許可に違反した(究局的には商法二三七条第2項違反)ものというべく、この決議は無効であるか、少くとも取消を免れない。
附言。総会のこの経過を見ても、少数株主による招集許可申請は、一部の株主が藤田正蔵と結託し最初より決算書類の議案の提出されないことを予期しながら単に、役員改選のみを強行しようとする計画であつたことが判明する。かくの如きは裁判所を欺罔する許すべからざる行為である。
(C) (議長選出方法の定款違反)
右総会においては、株主小脇芳一の議長として指名し議事を道行せしめたが(議事録写三-四頁)定款によると、総会の議長は社長がこれに当ることとなつている(定款二〇条)。当日社長も総会に出席していて「事故」があつたことはない。しかるにこれを除外して議長を指名し前記の各決議をなしたのであるから、この決議は決議の方法が定款違反であつて取消を免れない。
亦、仮りに商法二三七条により招集せられた総会においては、議長を社長とすることは不当であつて当該総会において株主中より選出した者をもつて議長とすべしとする議論がありとしても、本件総会においては、その選出方法が商法及び定款の規定に違反している。何となれば議長の選任も総会の決議事項となる場合には、やはり決議方法に関する商法又は定款の規定によるべきであるにも拘らず(即ち出席株主の議決権の過半数によるべきである)その方法をとつていないことは総会の議事録の記載上明かである。即ち株主立石欽一が議長の指名を自分に委任されたき旨をはかり「異議なし」の声に応じて過半数の賛成ありたるものとして議長に小脇芳一を指名して可決したものであつて、右は前記第二の(A)について述べたと同様の理由により右議長選任の議決に際し、議決権の数が過半数に達しているかどうか不明である。
従つて、結局本件決議は議決の方法が定款又は商法の規定に違反したものとして取消を免れない。
(D) (決議が定款第二十七条(役員の任期に関する規定)違反であること)
前述のように被申請会社の成規に作成せられた昭和三十三年下期決算書なるものは、少数株主招集許可申請当時から作成見込なきことは確定していたのであり(本申請書第一の(一)参照)、現に総会を開催しても成規に作成せられた決算書類は存在せず、その承認は決議できなかつたぐらいである。従つて、本件少数株主の招集せる総会は商法上は定時総会とはいい得ない(本申請書第二の(B)参照)。ところで定款第二十七条によると取締役及び監査役の任期は取締役にあつては就任後第四回、監査役にあつては第二回の定時総会終結のときに満了すると規定されているが、ここに定時総会というのは、もちろん実質上定時総会としての性質を有するものを指すことはいうをまたない。ところが商法上は定時総会においては必ず会社の成規の手続を経て作成せられた決算書類の承認の手続がなされることを要し(商二八三条)この決算書類の承認の決議を含まないで、単に取締役又は監査役の改選の決議をなすだけの総会は、たとえ一定の時間に開かれるものであつても、また定時総会の名をもつて招集せられたものであつても、定時総会とはならない(本申請書第二の(B)所掲の学説参照)。
仮にそうでなくとも被申請会社の定款第十六条によると、「毎決算期の翌日より定時総会終了の日まで株式名義書替などを禁止する」旨が規定せられているから、これは被申請会社の定款上は、定時総会というときには、必ず決算書類の承認を必要とする趣旨が示されているものであるから、少くとも被申請会社において定時総会というときは、決算書類の承認の決議がなされることが必要であつて、これがなされないときは、被申請会社における定時総会とはいいえないと考えるべきである。
然るに本件総会においては、昭和三十三年度下期の決算書類の提出見込なきことは招集許可申請当時より確定して居り、現に総会当日も提出されず従つて決議もなされなかつたのであるから、本総会は被申請会社の総会としては定時総会とはいい得ないこととなる。従つて、第二、第三号議案に記載された各取締役、監査役の諸氏は未だ任期の最終回の定時総会が終結していないのであるから任期満了せずというべきであり任期満了を理由としてこれら諸氏に代るものとして新に取締役及び監査役の改選を決議しても、その決議は内容が法令又は定款に反する無効のものである。
仮に定時総会の意味を右のように解せられないとしても被申請会社の取締役及び監査役の任期が歴日をもつて定められることなく、四回目又は二回目の定時総会に満了するという様な定款の規定となつている場合は、少くとも取締役、監査役の任期を計算する場合の定時総会というときは、決算書類の提出せられた定時総会を指すのであつて、計算書類の堤出せられない総会が仮りに定時総会であつても、取締役の任期の計算の基礎となる定時総会としては、これを計算に入れるべきでないと解せねばならない。その理由は
取締役及び監査役は会社の決算書類の正当性について責任を負わなければならない(商二八四条)から、決算書類を総会に提出しこれについて説明をなし総会の承認を得た上で任期が満了するとしなければ総会において説明の機会なくして責任を負担せしめられる場合が生ずるであろう。例えば就任後四回目の定時総会において任期満了すると定められてある場合に、昭和三十四年四月の定時総会で選任せられたA取締役は昭和三十六年四月の定時総会で任期が満了することとなるが(定時総会年二回として)もし昭和三十六年四月の定時総会で決算書類が提出せられないにも拘らず、四回目の定時総会であるという理由だけで、任期が満了するとすればA取締役は昭和三十五年十月から昭和三十六年四月までの計算関係については、何等審議の機会なくして責任を負わされることとなる。だから被申請会社の取締役、監査役の任期は常に決算書類の提出された定時総会をのみ回数の計算の基礎とすべきである。もし本件においても、成規の決算書類の提出のなかつた去る七月十六日の総会で取締役、監査役の任期が満了するとせば、事態の最も紛糾した当期間の計算関係について何等これを審議することなく後日代表取締役代行者藤田正蔵等が勝手に作成した計算書類について任期満了したとして除斥せられた取締役も在職中の部分について責任を負わねばならないこととなる。このような結論は取締役の責任論からは到底承服できない。そこで去る七月十六日の総会が仮りに被申請会社にとつて、定時総会であつたとしても、決算書類の提出がない以上は、定款に定められた取締役、監査役の任期を計算する上では、定時総会の回数に入れてはならないこととなる。
以上何れの理由によつても議案第二、第三号掲記の取締役及び監査役諸氏は未だ本件総会が終結するも任期満了したということはできないのである。それにも拘らず総会は第二、第三号議案掲記の諸氏にとつて何れも就任後第四回目(取締役)又は第二回目(監査役)の定時総会であつて任期満了したりとし、これに代る新たなる取締役、監査役を改選する決議をしたことはその内容が定款に違反した無効の決議である。
注。(反対説)
上記の如く「最終の決算期に関する定時総会が現実に開かれるまでは、いつまでも任期が延長される」と解することは取締役の任期は二年を越ゆることを得ないとする商法第二五六条第一項(監査役については一年とする商法第二七三条)に違反する、従つて商法第二五六条第三項の定時総会の終結まで任期が伸長せられると云う意味は、「通常の場合を予想して所定の時期に招集せられる定時総会の終了までと解すべきであつて、定時総会が所定の時期に招集せられなかつた場合、取締役、監査役の任期はこれによつて伸長せられるべきものでない」との下級審の判決がある。
然しながら、取締役、監査役の法定の任期はその地位の重大性に鑑みて任意に定款をもつて変更し得ないことは勿論であるが、いかなる場合にも任期延長の結果を認めずとすることは行き過である。もし反対説のいう如く、商法二五六条三項が通常開催せられるであろう定時総会の時期まで延長せられることを認めたにすぎないとするならば、商法二五六条三項は全く無意味の規定となるであろう。
我国の実際においては、取締役、監査役の任期を年をもつて定める場合においても、決算に関する取締役、監査役の責任との関連上、定時総会において選任せられ、結局、任期の最終が決算期の定時総会と一致せしむる例が大多数であるが、もし決算期の定時総会以外の時期に選任せられた取締役、監査役があつて、しかも年をもつて任期が定められているとする場合に絶対に任期の延長を許さないとすると、任期の最了の年の決算については十分なる検討を加えることなくして任期が終るし、しかも在任中の計算関係について責任を負うというが如き奇妙なる結果を生ずる。
それが故にこそ、商法二五六条三項はこの結果を避けるために特に任期の延長を許して任期の終了と決算期の定時総会とを一致せしめんとしたものである。然るに、もし通常行わるべき即ち想像上の定時総会の時期をもつて任務が終るとするならば、現実には決算書類の検討を行うべき機会なくして責任を負わされるという法が避けんとした結果を再現することとなる。従つて商法二五六条三項の定時総会はやはり現実に開かれた定時総会を指すものと解しなければならないであろう。
もつとも商法二五八条は任期満了した取締役もなお取締役としての権利義務を行い得る場合を規定しているが、この特権は法律又は定款に定めた取締役の員数を欠くに至つた場合に限定されているのだからそのような状態に達しないで任期満了した取締役はこの特権をも享受できないのであるから、この規定では救済できないこととなる。だから、やはり商法二五六条三項の解釈としては取締役、監査役の任期満了は想像上の定時総会終了の時期ではなく、現実に開催せられた定時総会が終結した時と解するのが正論である。
被申請会社の定時総会がいかに通常開かるべき時期を徒過しても、それによつて取締役、監査役が、もはや任期満了したとはいい得ないのであつて、やはり今後現実に開かるべき定時総会まで任期が延長せられているものと考えるのが正当である。
第三、本仮処分命令申請の必要性と緊急性について
(1) 岡山地方裁判所に対し、株主総会招集の許可申請をした板野醇平外三名は、被申請会社の代表取締役職務代行者藤田正蔵の傀儡で、昭和三十四年七月十六日開催の株主総会招集手続は勿論右総会の議事はすべて、藤田正蔵一味の発意と意見によつて取り進められたことは顕著なる事実である。
(2) 藤田正蔵がこの様な因循苦肉の方法をとつてまで株主総会を招集し且つ、重大なる法令又は定款違反を敢行してまでも、上記の様な議決を為した所以のものは一に、藤田正蔵が被申請会社の社長たるの地位を死守せんとの意図によるものであるの外何ものでもない。
(3) 藤田正蔵は昭和二十七年四月、年令二十四才で被申請会社の常勤取締役となり、翌二十八年四月からは代表取締役社長になつたものであるが、かゝる経歴者にあり勝ちな様に藤田正蔵も、自己の意を迎えない者はその人物、手腕、力量の如何にかゝわらず重要視せず、時には面罵、叱責し、甚しきは馘首をもする如き極端なワンマンであり、而も不幸なことであるが、部下社員も、かかる状況下にあり勝ちな卑屈に陥り、社長たる藤田の鼻息を窺うに吸々として、その意に反して諌言をするものはなかつた。
亦藤田は会社の業務運営について臨時取締役会を開催し先輩取締役の意見を徴しその業務を執行すべきであるのに、年二回の定時株主総会の際を除いては全然取締役会を開催しなかつた。
かくて、藤田は会社の内部に関する限り全く自己の意のままに振舞つたのである。
(4) 而して、被申請会社の資産は年一年とその脆弱さを加えつつあり、株主方面より右藤田の数千万円に及ぶ社金横領事実が報ぜられ、遂に去る二月には岡山地方検察庁に正式告発を受けその為に藤田社長就任以後の会社帳簿は岡山地方検察庁に領置され、特に去る六月十九日には昭和三十三年下期の決算に必要なる帳簿類までも領置されて本日現在に至るまで約六ケ月の長きに亘り三笠検事により連日多数の証人が出頭を命ぜられて取調べを受けて居り、捜査は相当進行し近く藤田正蔵を召喚取調らるべき段階にあることが認められるのである。
(5) 以上の様な次第であつて、被申請会社の昭和三十三年度下期(昭和三十三年十月一日より昭和三十四年三月三十一日までの間)の決算案についてもその内容は全く正確でないことが明かである。
(6) そこで、冒頭で述べた様に公認会計士に委嘱して同期間中の経理を調査せしめたところ、藤田正蔵が、取締役会に提出した決算案は、償却すべき職員退職給与金引当金百五十万円を償却していなかつたので、該期利益金につき、右金額と同額の百五十万円を水増していたことが摘発された丈で、藤田正蔵の巧妙なる手口は遂に公認会計士による摘発もこれを為し得なかつた。
(7) これはすべて社長藤田正蔵が、日頃より部下職員に命じて、国税庁や司直の摘発を受けても経理上の不正を掴まれない様万全の注意を為さしめたほか、偽造の領収書を作成してこれを真正なものの如く仕做して社金を取出し費消する外、費消残については別にこれを所謂「裏金」として、隠匿保管していたことにるものである。
而して、昭和三十四年三月十四日当時の代表取締役安田彦四郎氏によつて金庫中よりこの「裏金」三十二万四千五百六十三円が発見せられ、次で会計課長松崎宏太郎作成の「裏帳」が発見せられるに至つた。
右裏帳はその頃岡山地方検察庁の命令により同庁に提出領置されるに至つているので、その具体的事実を茲に明記することは困難であるが、大体裏帳は昭和三十三年一月一日から昭和三十四年二月末頃までの間の裏金の収支が記載され、その帳尻残が前記金庫から発見された金三十二万余円と一致していたものであり、その収支双方の金額は大体二百万円内外であつた。
(8) 而して、藤田正蔵が作成して取締役会に提出した決算案には右裏帳記載の収支金は全然算入されていないことは勿論である。
(9) 然るに藤田正蔵は斯の如き会社経理の不正、ひいては自己の横領事実が徹底的に摘発せられないようにする為めには、先づ取締役の構成を自己に有利にすることが必要であり、これによつて代表取締役の地位を持続し置かば、株主総会に於てもその株主権行使に関する委任は原則として社長宛に為されるのが慣例であるので、事情を知らない一般浮動株主の委任状が得られる利益がありそれ丈株主総会に於て優位に立ち得て、取締役の地位もこれ亦信任されるものと考え、万事この考に立つて、総会対策をしているものである。
(10) かくて前段記述の如く昭和三十三年下期決算につき、その不正が見破られ到底取締役会に於て自己作成に係る決算案が承認されないと見るや、商法及び定款に反して取締役会の議決を経づして一方的且つ独断で昭和三十三年度下期の定時株主総会を招集し、これが岡山地方裁判所の仮処分命令により招集が停止されるや、執念にも直に自己の腹臣板野醇平等四名をして前記の通り少数株主による総会招集の手続を為さしめ、且つ第二の項に記載した如く数々の重大なる法令又は定款違反を敢行してその議決を為したものである。
(11) かくて従来より社長の不正を糾明していた、取締役坪井清一、星島睦雄、福田弘の三名竝に監査役杉山五郎を任期が満了していないのに満了しているとしてその地位を奪い、後任者を選任した。
(12) この後任者にして総会議長が推薦決定したのは前記少数株主四名中の一人である立石欽一及び従来より藤田正蔵と特殊的親交関係がある西崎恵の両名である。
(13) これによつて取締役は五名となり、内安田彦四郎一名を除き全員が藤田正蔵派によつて占められるに至つた。
(14) そこで、藤田正蔵は早速昭和三十四年七月十六日被申請会社の取締役会招集の通知を発し四月二十二日同取締役会に於て取締役安田彦四部を除き全員出席の上前回の取締役会に提案して否決された昭和三十三年度下期決算案をそのまゝ提案してそれを可決し、次で代表取締役をして藤田正蔵を互選した。
(15) 而して藤田正蔵は近く株主総会を招集して、その総会に於て前記の通り計り知れない不正と、虚偽を包蔵している決算案を議題として提案し、前記の通り代表取締役(又は代表取締役職務代行者)たるの地位を利用し真相を知らないで配当の早きをのみ願つている浮動株主の委任状を得て一挙に多数決を以て之を承認議決せしめて配当金を支払いそれ等の歓心を得て、横領の嫌疑を糊塗すると共に、最悪の事態に立至つてもなお将来取締役の地位を保持しようと計画している。
(16) 以上の次第であるから被申請会社の株主である申請人は、別に株主総会の決議の無効確認及び取消の訴を提起すべく準備中であるが、本案判決確定までまつときは違法に選任せられた前記潜称取締役が、取締役の職務を行うことを許すことなり、被申請会社は勿論株主の蒙る損害は測り知れざるものがあるので、申請の趣旨通りの御裁判を得るべくこの申請に及んだ次第である。
予備的請求の申立
一、第一項を仮処分命令申請書申請の趣旨第一項通り第二項及び第三項として
二、被申請人西崎恵、同立石欽一は被申請人中国鉄道株式会社の取締役の職務の執行を停止する。
右期間中、西崎恵に対しては岡山県吉備郡高松町大字原古才二六三番地坪井清一を、立石欽一に対しては総社市山田九六二番地福田弘をそれぞれその職務代行者として選任する。
三、倉敷市藤戸九〇一番地星島睦雄を被申請人中国鉄道株式会社の取締役としての地位を仮りに保有せしめその残務を行はしむ。
別紙二
昭和三四年(ヨ)第一五五号事件
申請の趣旨
被申請会社代表取締役職務代行者藤田正蔵が、昭和三十四年八月八日附で招集した昭和三十四年八月二十四日午後一時より岡山市西中山下一番地被申請会社に於て開催する昭和三十三年度下期営業報告書、貸借対照表、財産目録、損益計算書並に利益金処分案承認の件を会議の目的たる事項とする被申請会社の株主総会はこれを停止する。
申請の理由
第一及び第二
別紙昭和三四年(ヨ)第一五二号事件申請の理由第一及び第二記載のとおり。
第三、
(一) 然るに、被申請会社の代表取締役職務代行者藤田正蔵は、早速昭和三十四年七月十六日被申請会社の取締役会招集の通知を取締役林永之、同藤田剛平、同安田彦四郎の外前記立石欽一、西崎恵に対して各発した、次いで同月二十二日取締役会を開催したところ藤田正蔵、林永之、藤田剛平、立石欽一、西崎恵の五名は出席し、安田彦四郎は欠席した。
而して右取締役会に於て、(1) 前回の取締役会に提案して否決された昭和三十三年度下期決算案(営業報告書、貸借対照表、財産目録、損益計算書並に利益金処分案)をそのまま提案して、これが承認の決議を為したる外(2) 昭和三十四年八月二十四日午後一時より岡山市西中山下一番地所在の本社に於て右決算案承認の為め株主総会を招集する旨の決議を為した。
而して、右決議に基き前記藤田正蔵は昭和三十四年八月八日附を以て昭和三十三年度下期営業報告書、貸借対照表、財産目録、損益計算書並に利益金処分案承認の件なる議案審議の為め昭和三十四年八月二十四日午後一時被申請会社本店に於て株主総会を招集する旨の通知を各株主宛に為した。
(二) (1) 然しながら、右昭和三十四年七月十六日の取締役会招集の手続は明かに法令若は定款に違反した瑕疵がある。
即ち、商法第二五九条ノ二並に定款第三四条によれば、「取締役会を招集するには……各取締役に対しその通知を発することを要す」ことになつているのに、昭和三十四年七月十六日附の取締役会招集の通知は、前記の通り林永之、藤田剛平、安田彦四郎の四取締役には発せられたが、その他の取締役坪井清一同星島睦雄、同福田弘の三名に対しては発せられていないのである。
而して、右三名が未だなほ被申請会社の取締役の地位を有するものであることは前記申請の理由第二の項に於て詳述した通りであるのであつて、右三名に対して招集通知を発しなかつたのは明に前記法令及び定款に違反している。
(2) 仮に、この招集手続に瑕疵がなかつたにしても、昭和三十四年七月二十二日の取締役会の決議の方法は明かに法令若は定款に違反している瑕疵がある。
即ち、商法第二六〇条ノ二並に定款第三十六条によれば「取締役会の決議は取締役の過半数出席し、其の取締役の過半数を以て之を為す」と定められているところ同日現在に於て取締役坪井清一、同星島睦雄、同福田弘の三名が未だ取締役の地位を有し、反対に立石欽一、西崎恵の二名が取締役の地位を有していないことは前縷述の通りであるのでこの七月二十二日の取締役会には七名の取締役中坪井清一、星島睦雄、福田弘の三取締役は招集通知なき為め出席せず取締役安田彦四郎は事故の為め欠席したので、結局、同取締役会には藤田正蔵、林永之、藤田剛平の三取締役が出席したにとどまる。
従つて法令、定款に定むる過半数即ち七名中四名の数を下廻る取締役が出席したにとどまつているので同取締役会の決議はその決議の方法に瑕疵がある。
(三) 以上の次第で、同日の取締役会に於て為した前記二つの決議((1) 昭和三十三年度下期決算案承認の件と(2) 昭和三十四年八月二十四日午後一時より本社に於て右決算案承認の為めの株主総会招集の件)は孰れも無効又は取消さるべき瑕疵があると言うべきである。
即ち昭和三十三年度下期の決算案は未だ適法に成立していないし亦、昭和三十四年八月二十四日の株主総会はこれを招集してはならないのである。
従つて、被申請会社の代表取締役職務代行者藤田正蔵が昭和三十四年八月八日附を以て為したる前記株主総会招集の通知は無効である。
第四、最後に、被申請会社の代表取締役職務代行者藤田正蔵が何故にこの様に、数々の法令又は定款違反を犯してまでも今回の株主総会を開催しようとするのか、そして株主である申請人が何故にこの総会停止の仮処分命令申請をするのかを明かにし度い。
(1) ないし(12)
別紙昭和三四年第一五二号事件申請の理由第四(3) ないし(14) 記載のとおり。
(13) かくて藤田正蔵は前記の様に株主総会を招集して、その総会に於て前記の通り計り知れない不正と、虚偽と包蔵している決算案を議題として提案し、前記の通り代表取締役(又は代表取締役職務代行者)たるの地位を利用し真相を知らないで配当の早きをのみ願つている浮動株主の委任状を得て一挙に多数決を以て之を承認議決せしめて配当金を支払いそれ等の歓心を得て、横領の嫌疑を糊塗すると共に、最悪の事態に立至つてもなほ将来取締役の地位を保持しようと計画している。
(14) 以上の次第であるから被申請会社の株主である申請人は、別に株主総会の招集手続の無効確認訴訟を提起すべく準備中であるが本案判決確定までまつときは過誤多く、成規に成立していない前記決算案が提案せられ之が承認可決される虞れがあり、かくては被申請会社は勿論株主は著しき損害を蒙るのみならず、藤田正蔵等の急迫なる強暴を許すこととなるので之を防ぐ為め申請の趣旨通りの御裁判を得るべくこの申請に及んだ次第である。